テレワーク導入が進まない原因と導入のポイントを解説

新型コロナウイルスの波が断続的に続き、なかなか収束しない中、いったん広まったテレワークが持続しない…という悩みが増えています。

生産性の向上や労働時間の短縮など、メリットの多いテレワークをどう定着させればよいのでしょうか?

本稿では、テレワーク導入のポイントや、国や地方の行政支援について解説します。

テレワークが普及しない背景や原因は?

コロナ禍で“三密”を避ける手段として注目が集まったテレワーク。

しかしながら、国際的にみて日本のテレワークの普及率は著しく低く、浸透していないことが明らかになっています。

Polycom 社が 2017 年(コロナ禍前)に調査した「テレワークなど柔軟な勤務形態」の割合は欧米の60-70%に対し、日本は20%でした。
その後、コロナ禍が始まった2020年にはテレワーク化が急速に進み、大企業の「テレワーク実施率」は約3-4割まで高まりましたが、依然として中小企業は約1-2割にとどまっています。

2021年に東京商工会議所が実施した調査によると、「週3日以上テレワークした従業員の割合」は大企業で60-70%に対し、中小企業では30-40%と低調で、しかも減少傾向にあります。
コロナ禍でせっかく根付きかけた良い慣習が定着せず、元に戻りかけているのです。

テレワークの不満を尋ねたライムライト・ネットワークス・ジャパン株式会社が2020年7月に実施した調査によると、「オンラインビデオ会議中に遅延や中断が起こる」(34%)が最も多く、「ファイルのアップロードやダウンロードがうまくいかない」(23%)が次に多いものでした。
テレワークそのものについては65%が「生産性は上がる」と答え、約3割が「労働時間が短くなる」と答えているだけに、通信トラブルは今なお大きな課題です。
実際に「生産性が下がった」(17%)と答えた人は「ネットワーク回線が細く、接続が安定しない」ことを理由に挙げています。

他にテレワークが進まない背景には、人材や費用の不足が挙げられます。
これらのポイントをひとつずつ解決することが、テレワーク定着につながるでしょう。

また、2021年にはデジタル庁も新設されました。
ワクチン政策のように、腰が重い反面、ひとたびトップダウンで動き出せば対応がスピーディな点は日本の長所です。 これを機に各社が一斉にテレワーク定着に動き出せば、好転の兆しがみえるでしょう。

テレワークを導入するポイントの紹介

テレワーク導入のための具体的なポイントについてご紹介します。

労働管理方法やシフト制度の見直し

2022年になり、国家公務員の勤務時間をテレワーク対応の制度にする議論が始まりました。
この人事院の例のように社則がそもそもテレワークを想定していない場合、まず勤務時間の見直しやテレワークを「みなし勤務」と定める必要があります。

事務作業の自動化

表計算ソフトへの入力など、日常的業務の大半を占める定型作業はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)化し、効率的に行う態勢を整えましょう。
最近では、「ノーコード」と呼ばれるツールで比較的簡単に構築可能です。

人材のリスキリング

多くの場合、デジタルツールと親和性のある若い世代とは違い、中高年世代には対処が必要です。最新のツールや知見を学んでもらうサポート体制を作り、リスキリングを図りましょう。

社内ルールのアップデート

効率の良いデジタル化を進めても、時代錯誤の仕組みやルールはテレワーク化の妨げになります。スマートフォン連携する勤怠管理システムの導入、机・椅子・PC・周辺機器の現物支給、通信費・光熱費の負担など、従業員が気持ち良く利用できる環境構築の支援が必要です。

万全なセキュリティ対策

テレワークには情報漏洩に対する備えが欠かせません。
中小企業を狙ったサイバー攻撃による被害数が年々増えているため、通信網のセキュリティ対策が不可欠です。
VPNの導入、パスワード管理方法の見直し、データを保持しないシンクライアント仕様のPC・サーバ活用など、然るべき対策を講じましょう。

このようにテレワークの円滑な導入には、物理環境、ソフトウェア、制度、費用、セキュリティの各側面からサポートが必要になるでしょう。

テレワーク導入時の国や市区町村の支援の紹介

導入待ったなしのテレワークですが、そうはいっても社内に頼れるデジタル人材がいない場合、敷居の高いものです。

そうした悩みを抱えている企業のために、国や地方自治体がテレワーク導入のための各種コンサルティングや補助金助成を行っています。以下、その一部をご紹介します。

総務省

〇テレワークマネージャー相談事業
ICT専門家等のノウハウ等を有する専門家(テレワークマネージャー)がICTツールやセキュリティ等のテレワーク導入に関するコンサルティングを無料で行います。

厚生労働省

〇人材確保等支援助成金テレワークコース
テレワークを新規に導入する中小企業事業主向けにテレワーク用通信機器の購入や就業規則の変更等にかかった費用の一部を助成します(最大助成率65%、金額200万円を限度として支給)。

東京都

〇テレワーク促進助成金
テレワークの定着・促進に向け、都内中堅・中小企業等のテレワーク機器・ソフト等のテレワーク環境整備に係る経費を助成します。

〇テレワーク・マスター企業支援奨励金
中小企業に対する新たな支援で、都内中小企業1万社を目標に「週3日・社員の7割以上」、3か月間、テレワークを実施した企業を「テレワーク・マスター企業」として認定し、最高80万円の奨励金を支給します。

〇ワークスタイル変革コンサルティング
都内の中堅・中小企業等を対象に業務改善やICTの専門家を最大5回まで無償で派遣し、テレワーク導入に向けた支援を行っています。

各企業だけでなく、国際社会に開かれた先進国家を目指す行政としても、海外人材獲得のための「働きやすいオープンな環境づくり」は急務です。
“いつでもどこでも働けるテレワーク社会”の実現に向け、支援体制のさらなる普及が求められることでしょう。

まとめ

リモート化に移行した世界の潮流に大きく水をあけられていた日本のテレワーク。
時代に合った新しい働き方を定着させるには、コロナ禍やデジタル庁新設による好機を逃す手はありません。

国や地方自治体からさまざまな中小企業向けのサポートや助成が出ていますので、導入を検討している担当者は積極的に活用しましょう。